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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)2893号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人津田勍の上告趣意第一点について。

原判決が是認した第一審判決中第二事実の趣旨は、要するに被告人が待合の主人に対し代金を確実に支払い得る見込もその支払をする意思もないのにその見込及び意思があるよう装うてその待合において飲食遊興したい旨申入れ同人をして確実にその代金の支払を受け得るものと誤信させてこれを提供せしめその結果即時同所で他人とともに代金一九、九一〇円に相当する飲食遊興をしその支払をせずこれに相当する財産上不法の利益を得たというにあると解せられるから、被告人らが右主人をして右待合における飲食遊興の提供をさせてこれを享受したときに財産上それだけの不法利益を得たものということができる。論旨は判例違反をいうけれども、引用の判例は、右事件の被告人(相手方を欺罔する意思を持っていたことは認定されていない)が最初相手方に対し物品を売り渡す契約をしてその代金を受領しながら、履行期限を過ぎてもその履行をせず、履行の意思のないのに相手方に対し欺罔手段を施し恰も右物品発送手続を完了したかの如く相手方を誤信安心させそのままとなさしめたという事案に関するものであり、本件のように最初から欺罔する意思で飲食遊興の申入をした場合と異るのみならず、本件の場合においては被欺罔者は待合での飲食遊興の提供という行為をしているのであるから、原判決には引用の判例に反するところなく、原判示の趣旨は前示のとおりであるから、所論のような理由不備の違法はない。論旨は理由がない。

同第二点は単なる事実誤認及び審理不尽の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 高橋 潔)

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